2004.01.26修正版(要旨追加)

第3回 種子散布研究会

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4森林帯における森林の衰退と再生

田川日出夫
屋久島環境文化財団

 人類はこれまでの長い歴史の中で、森林と深く関わり、利用しそして破壊してきた。しかし、今日我々は地球温暖化を進めないため、森林資源の回復のためにも森林を回復しなければならない。このような考えからタイガ、夏緑樹林、硬葉樹林、照葉樹林について森林の衰退と再生に就いて述べたい。森林衰退の主原因は伐採と放牧である。中国の万里の長城は元の軍隊だけでなく、連れて来る生きた食物、ヤギやヒツジの浸入を防ぐことにあったと考えている。英国では放牧で森林をヒースに変え、エーゲ海域では乾燥ヒースに、イタリーではマキに、アドリア海沿岸の諸国では沿岸沿いの森林をガリーグに変えてしまった。ロシアに広がるタイガ針葉樹林はパルプ資源として最近注目されているが、伐採跡が日光に晒されて地下の永久凍土層が融解し、亀甲模様の低地が出現、変化が続いてやがては池や湖になる。このような変化は地球温暖化が進むと加速される。水が表面に出てくると植樹は不可能である。翻って我が国の照葉樹林を作る樹木は萌芽性を持っているので、伐採後10年以上放置すると元の森林に回復する。世界でも先進工業国でありながら、森林が昔の姿を残しながら存続してきたのはこの萌芽性に原因がある。熱帯多雨林の大規模衰退と再生は今日の問題である。その修復には幾つかの問題がある。優占種に萌芽性がないこと、表土の有機物分解速度が速いこと、林冠を占める種の種子の移動が困難なことなどである。


種子の発芽特性と種子散布における休眠の意義

神崎 護
京都大学大学院 農学研究科 森林科学 熱帯林環境学

 植物の生活史の中で種子散布の段階は,散布後の種子の発芽と休眠のプロセスと連続しており,種子散布特性は発芽・休眠特性と合わせて解釈する必要がある.今回の発表では,種子散布過程そのものではなく,私たちが熱帯樹種について行ってきた散布後の種子の発芽・休眠の過程に関する研究を紹介する.この発表が種子散布過程と発芽・休眠過程を一体的に理解する一助となれば幸いである.
 種子の散布から発芽の過程は,種によって大きな変異をもっている.東南アジア熱帯でもっとも適応放散したグループのひとつであるフタバガキ科樹種のほとんどは翼をもった風散布種子を持ち散布後に急速に発芽を完了する.またフタバガキ科の多くは一斉開花に同調して繁殖を行う.これに対し,トウダイグサ科のMallotus属やMacaranga属などのパイオニア樹種は,鳥によって広範囲に散布され,強制休眠によって巧妙に発芽のタイミングをコントロールし,休眠状態にある種子の寿命はおそらく10年から100年,あるいはそれ以上に達するものもあると考えられる.彼らは,1年に1回以上の高頻度で開花結実する.このような両極端の種の間には,散布様式と発芽様式を異にするさまざまな種が存在する.マレーシア,パソーの熱帯多雨林で実験埋土種子集団を林内に設置してその動態を調べると,原生林構成種のうち16%は1年以上の平均寿命を持つ種子を有し,長期間にわたって林内で発芽し続けた.一方,二次林構成種で1年以上の平均寿命をもつ種は77%に達した.このような発芽・休眠の特性は果実・種子の形態と密接にリンクしていて,これらの種はクラスター分析によって次の3つの生態グループに区分できた.:1)散布後に急速に発芽定着する原生林構成種,2)散布後も長期にわたって発芽が抑制され,二次散布者による散布を期待していると考えられる原生林構成種,3)鳥散布やアリ散布などに適応した散布器官を発達させた,強制休眠種子を持つ二次林構成種.さらに,熱帯山地林における研究では,クスノキ科の内部だけでも多様な発芽様式が存在することが明らかとなった.
 先ほどの,3つの生態グループそれぞれの種子の発芽・休眠特性は,果実の散布機構と密接に関連していることが予想される.しかし,残念ながら個々の種について一次散布から二次散布に関する研究が実施できていないために,この部分の関連性が十分解明されていない.温帯林では散布から発芽過程にいたる小川サイトなどで詳細な研究が行われている.種多様性と生活史多様性のきわめて高い熱帯域での包括的な研究が必要である.


ヤブツバキの種子散布と更新過程におけるアカネズミの役割

阿部晴恵
東邦大学大学院 理学研究科 地理生態学研

1.目的
 ヤブツバキは照葉樹林の代表的な構成樹種であるが、本種の種子散布者は明確に特定されてはいない。しかし、伊豆諸島新島で行った食痕調査によって、アカネズミがヤブツバキの種子を餌として利用していることが確認されている。また、新島の農地は、農業従事者の高齢化に伴い耕作が放棄されつつあり、遷移の進んだ場所にはツバキの稚樹が存在している。耕作放棄地内にツバキのシードソースが存在する可能性が少ないことことから、ツバキの種子は一旦重力散布された後、アカネズミによって耕作放棄地に運ばれ、定着した可能性が高い。そこで本研究では、ヤブツバキの種子散布におけるアカネズミの役割を明らかにすることとを目的とした。

2.調査方法および結果
(1)アカネズミのヤブツバキ嗜好性実験(2003年3月)
 5匹(♂=2、♀=3)のアカネズミを5晩飼育し、ヤブツバキと摂食するスダジイなどの種子を毎日数個ずつ与え、その嗜好性実験を行った。その結果、全個体が、1日に2〜5個のヤブツバキの種子を摂食することが確認された。

(2)アカネズミによる種子の運搬、貯食状況調査 (2002年11月〜4月、2003年9月)
 糸巻きをつけたヤブツバキの種子を野外に設置し、アカネズミによる持ち出しの有無、運搬距離、運ばれた種子の状況を調査した。設置した種子を持ち出した生物は、センサーカメラで撮影した写真により同定した。その結果、アカネズミによる運搬は確認されたが、ほかの動物による持ち出しは確認されなかった。2002年に農地に設置した種子には動きが見られなかったため、ツバキの結実がほとんど見られなかった地区で調査をおこなった。設置した280個のうち、223個は設置場所もしくは運搬後に種子のみ持ち去られたが、種子の貯蔵、被食も確認された。分散貯蔵はリター下に埋められた2個で、移動距離は4mと6mであった。半年後、それらの種子は消失していた。集中貯蔵は計22個あり、設置場所から近い岩の下などに運ばれていた。また、2003年9月に農地に設置した種子(N=20)には動きが見られ、2〜4m離れた土中に分散貯蔵されている種子が確認された。そのうち1つは発根していた。

(3)アカネズミの行動圏調査(2002年8月中旬〜10月中旬)
 常緑広葉樹林に接する約1haの農地を調査地とし、その中に約10m間隔で仕掛けた60個のシャーマントラップによりアカネズミを捕獲した。無線発信機付きの首輪を雄2個体、雌4個体に装着し、日中1回、夜間3回の位置特定を行った。植生の状態により調査地を区画分けし、ネズミの利用頻度と環境条件(実生の数、果実数、地温、土壌水分など)との関係を、重回帰分析を用いて解析した。その結果、ネズミの利用頻度と環境条件との有意な相関は見られず、アカネズミは常緑広葉樹林から草地にいたるまで様々な環境を利用していた。

(4)マイクロサテライトDNA分析によるヤブツバキの親子解析
 調査地に生育する成熟木(結実が確認されているもの)と実生(当年生−2年生)の位置を地図上にプロットし、成熟木の葉と実生の種皮から抽出したDNAのマイクロサテライト遺伝子座の遺伝子型(multilocus genotype)によって親子解析を行った。母樹の同定ができた実生23個体のうち、母樹の樹冠の縁より離れた位置に存在する実生は20個体(87%)であった。樹冠の縁からの移動距離の平均は6.57 m±6.45SD(Range:0〜29m)であった。また、耕作放棄地内の実生24個体のうち、10個体(43%)は隣接する常緑広葉樹林内の母樹から散布されたものであった。
各実生と一番近い距離にある成熟木(以下、見かけの母樹とする)について、その樹冠の縁からの距離を測定した。見かけの母樹の樹冠と実生の距離、および真の母樹の樹冠と実生の距離について、単回帰分析を用いて解析を行ったところ、両者の間には強い正の相関がみられた(F=9.999、P=0.005)。

(5)カイガラムシの寄生率
 調査地の成熟木には100%カイガラムシが寄生していた(N=126)。カイガラムシは枝葉上を移動分散し、樹液を吸汁する昆虫である。そこで、成熟木からの分散がカイガラムシの寄生回避の面で効果的であるかどうかを検討した。調査は、実生(N=267)と見かけの母樹の樹冠との距離を測定し、実生の寄生率とその距離との関係を、単回帰分析によって解析した。その結果、成熟木の樹冠からの距離が長くなるほど寄生率が下がる傾向があった(F=9.845、P=0.011)。ところが、葉の食害率と成熟木からの距離との間には、有意な相関は見られなかった(F=1.711、P=0.220)。

3.考察
 本研究により、ヤブツバキの種子がアカネズミによって散布されていることが確認された。散布された場所がヤブツバキの種子の発芽、生育にとって好適な場所であるかどうかはまだ不明である。しかし、ヤブツバキの種子は室内乾燥状態で貯蔵すると発芽率が低下する(家弓・柴田1989)ことから、アカネズミによるリター下もしくは土中の貯臓は、散布後の乾燥から種子を守る効果が高いと考えられる。また、成熟木から離れた所に存在する実生はカイガラムシの寄生を回避する傾向があった。
実生と母樹の親子解析の結果、多くの実生は重力散布で想定される距離よりも遠くへ散布されていたことが分かった。また、43%は隣接する常緑広葉樹林の母樹から耕作放棄地へ散布された種子であり、アカネズミが様々な遷移段階の植生を利用することにより、本調査地ではヤブツバキの種子が遷移初期の植生にも散布されたと考えられる。つまり、アカネズミによる種子散布は、ヤブツバキが新しい土地へ分布を拡大することに貢献しているといえる。

家弓實行・柴田道夫.1989.種子の貯蔵方法がヤブツバキ、サザンカの発芽に及ぼす影響.野菜茶業試験場久留米支場研究年報,pp.223−227.花き研究所


アリと種子の多様な相互関係 −種子散布とクリーニング効果について−

大河原 恭祐
金沢大学 理学部 生物学科 生態学研究室

 アリと植物間の相互関係において、種子との関係は特に多様な面を持っており、それはアリによる種子散布に代表される共生関係と種子食性アリ種に見られる捕食関係に大別される。多くの場合、このようなアリと種子との相互関係は草本植物種との間に生じるケースが多いが、木本種ともまた複雑な関係が生じている。本発表では果実をつける木本種の種子に対してアリの採餌行動が及ぼす影響とそれに伴う相互関係を紹介する。特に熱帯雨林における果実種の種子に対して、アリが与える効果について詳しい観察例を報告する。演者は2000〜2003年にかけて、インドネシア、ジャワ島のボゴール植物園において、ランブータンNephelium lappaceumを始めとする数種の木本種の果実と種子の捕食・散布過程について野外観察を行った。それら果実はジャコウネコや鳥によって捕食されていたが、種子はしばしば吐き出されて母樹近辺の林床に捨てられていた。それら種子にはオオズアリPheidole plagiaria, ヨコヅナアリ Pheidologaton affinis などのワーカーが群がり、表面に付着した果実繊維を集団で囓りとられていた。そうしたアリの捕食を受けた種子はカビによる感染率が著しく下がり、生存・発芽率が上がっていた。こうした効果は“ant cleaning”と呼ばれているが、このクリーニング効果の機構と適応的な意義について考察する。


タイの熱帯季節林における大型の種子をもつ植物Canarium euphyllumの種子
散布

北村俊平
京都大学 生態学研究センター

 大きな果実/種子をつける植物は、その植物にとっての有効な種子散布者が、一部の大型果実食動物に限られてしまうことが多いと考えられている。本研究では、タイ国カオヤイ国立公園の熱帯季節林において、大きな果実(39×25 mm)/種子(36×17 mm)をもつカンラン科Canarium euphyllum Kurzの種子散布を調査した。1)林冠部での果実消費の直接観察、2)林床での落下果実消費の自動撮影装置による観察、3)実験的に設置した種子の追跡、の3つの方法を用いた。1)では、2000年と2001年に結実した4個体を対象とした。のべ543時間の観察から、哺乳類2種(リス2種)と鳥類5種(サイチョウ4種とヤマミカドバト)の計7種が林冠部で果実を消費した。リス2種は、その場で果肉をはぎとり、種子を消費するため、種子食害者と考えられた。一方、鳥類5種は、果肉のみを消費し、種子にダメージを与えずに吐き戻すため、種子散布者と考えられた。2)では、2000年と2001年に、のべ5個体の林冠下に自動撮影装置を設置し、のべ60日間の調査から哺乳類8種(げっ歯類4種、有蹄類4種)が記録された。設置した果実は数日中に消費され、3種のげっ歯類(インドシナリス、アカスンダトゲネズミ、オナガコミミネズミ)の出現頻度が高かった。3)では、2001年の結実期間に、のべ16サイトの林冠下(C. euphyllumの雌個体6サイト、雄個体4サイト、イチジク6サイト)に、各サイト50個(10×5個所)の糸つきの種子を設置し、それらの種子の消失過程を追跡した。種子の持ち去り率は、雌個体サイト(84±34%、平均±SD)で高く、雄個体サイト(48±54%)とイチジクサイト(42±34%)で低い傾向が認められたが、サイト間で大きくばらついた。インドシナリス、アカスンダトゲネズミ、オナガコミミネズミの3種が種子を持ち去り、種子の一部に貯食が確認された。しかし、そのほとんどは種子食害を受けた。以上の結果から、C. euphyllumの果実は林冠で果実食鳥類に利用されるか、林床で落果が有蹄類によって利用されることで、結実木周辺でのげっ歯類による高い種子食害を回避することの重要性が示唆された。これらの大型の果実食鳥類や有蹄類は、いずれも人為的撹乱の影響を受けやすく、これらの動物の個体数が減少することで、C. euphyllumの種子散布にも大きな影響が及ぶと考えられる。


一斉開花時におけるフタバガキ科種子の捕食

安田雅俊
森林総合研究所 鳥獣生態研究室

 一斉開花時のフタバガキ科種子の散布前捕食とその規定要因を明らかにするために,半島マレーシアのパソー森林保護区において,1996年の大規模一斉開花と2001年の中規模一斉開花に調査を行った.保護区に自生するDipterocarpus属4種およびShorea属7種について,1-3個体の観察木を選定し,その樹冠下に開口面積0.5 m2のシードトラップを8個設置した.落下種子は被食種子と健全種子に分けて毎週回収し,樹冠部における種子被食率を推定した.2回の一斉開花のどちらでも結実した同一個体を比較の対象とした.また,各植物種につき合計48時間以上の直接観察を行い,樹冠部における種子捕食者を同定した.種子可食部の栄養成分と忌避物質として重要なフェノール類については,沼田らの研究成果を用いた.
1996年については,成熟種子落下期間中の樹冠部における種子被食率は0.8%-36.1%と種間で差があった.比較的高い被食率(> 5%)を示した種は,Dipterocarpus crinitusを除くDipterocarpus属3種およびShorea pauciflora, S. lepidota, S. multifloraで,比較的大きな種子をつける種に限られていた.中サイズの種子をつける種では樹上性リス(Callosciurus spp.)が,大サイズの種子をつける種では樹上性リスとブタオザル,オナガザル,リーフモンキーが主な種子捕食者であった.種子被食率は種子乾重と正の相関を示し,また単位重さ当たりのフェノール量と負の相関を示した.種子乾重とフェノール含有量との間には弱い負の相関が認められた.
 2001年の同期間の樹冠部における種子被食率は8.3%-94.2%と種間で大きな差があり,全体として1996年よりもかなり高かった.種子被食率は種子乾重と正の相関を示したが,前回と異なり,主な種子捕食者は,種子サイズにかかわらず,すべての植物種において樹上性リスとサル類であった.
以上のことから,フタバガキ種子の散布前捕食は種子サイズとフェノール含有量によって規定されていることが明らかとなり,種子に含まれるフェノール類は脊椎動物による捕食に対する化学的な被食防衛としてはたらくと推察された.さらに,一斉開花の規模が種子被食の程度に大きく影響し,ひいては植物個体の繁殖成功度に影響することが示された.
 また,約10年間の小型哺乳類の個体数センサスから,長い不作期と突発的な豊作期(一斉開花)という餌資源が時間的に大きく変動する環境下における地上性の種子果実食者の個体群動態についても合わせて紹介する.


みのりプロジェクト全国展開へむけて

福井晶子
日本野鳥の会 嘱託研究員

 果実食の鳥が,種子散布の担い手として植物にとって大事な存在であることは一般によく知られている事実です。しかし,日本各地において「どの鳥種がどの植物の種子をいつ運んでいるのか」といった情報は,その重要性に反してまとめられていません。種子散布研究会「みのり」プロジェクトでは,このような果実を食べる鳥種と果実の相互関係に注目し,日本各地における「鳥類の移動と果実の成熟の関係」について、さまざまな方々に協力をお願いし,野外調査を実施しています.その一環として,私たち「みのり」では,「鳥は何の植物の果実を食べているのか」「いつ食べているのか」,そして「何の種子がどのくらい鳥によって運ばれているのか」の情報をまとめる試みとして,1)果実数調査,2)果実食の鳥類数調査に加え,3)全国の鳥類標識捕獲調査を行っていらっしゃる方々に,捕獲された鳥から排出された糞中に含まれている植物種子の採集をお願いしております.しかし,現段階において,日本各地のデータをまとめるためのデータ収集にはまだまだ問題があります.そこで,まず現状の報告をおこない,つづいて,それぞれの調査について作成したマニュアルの紹介を行います.調査の現状については,つづく発表で各地における詳細が紹介されます.どうぞ,みなさまからの「みのり」への御参加および御意見,御提案をお願いいたします.  


2003年度北陸版みのりプロジェクトからの報告

木村一也
金沢大学 自然計測応用研究センター

 本研究は金沢大学21世紀COEプログラムの研究課題「環日本海・北陸地域の里山等における環境攪乱と生物多様性動態」の一環として、人間による攪乱程度の異なる調査地域で果実生産と鳥のモニタリングネットワークを立ち上げ、里山を中心とした森林における1)鳥類の多様性動態、2)果実生産と鳥の飛来数、3)シードレイン、4)実生消長の動態を調べて森林動態のなかでの鳥による種子散布効果を明らかにすることで、森林の劣化・鳥の飛来・鳥散布植物の繁殖成功の関連性を探ることを目的としている。鳥のモニタリングは「みのりプロジェクト」の共通マニュアルを用いることで、プロジェクトの日本海側キーステーションとして位置づけたものである。調査は石川県下11サイトを9人体制で、2003年9月から月2回の頻度で進めており、来年1月までの計10回を予定している。本発表ではこれら調査の詳細について紹介する。


滋賀県彦根市における液果のフェノロジーと果実食鳥類の変動

浜田知宏・野間直彦
滋賀県立大学 環境科学部

 滋賀県彦根市の平地から山地にかけての異なる3つの環境において、液果のフェノロジーと果実食鳥類の変動との関係を調べた。2003年5月から各調査地で50m×2kmの範囲で果実数を測定し、熟果量の推定を行った。鳥類についても各種の出現個体数をロードセンサス法を用いて記録した。2003年11月までに23科55種の鳥散布型植物が熟した。また、鳥類では12目31科76種が確認され、そのうち果実食と考えられるものは3目10科23種であった。日本の果実食鳥として重要と考えられるヒヨドリ、ツグミ、メジロは平地と山地の両方で確認されたが、ムクドリは平地でのみ確認された。
 春から初夏にかけてはサクラ属やクワ科の果実が熟したが熟果の種数および量は少なかった。夏期には平地の古い林でタブノキが熟したが、平地の二次林や山地に熟した果実はほとんどなかった。秋になると多くの種の果実が熟し、山地での熟果の量のピークは平地よりも約1ヶ月はやく現れた。果実食鳥類の個体数変動は秋以降、熟果の量の変動と連動し、特にヒヨドリ、ツグミ、メジロ、ムクドリは著しく増加した。
本調査地のような比較的狭い地域においても、液果の結実パターンとそれに伴う果実食鳥類の変動は調査地間で時期的なずれが見られた。今後冬に入って山地の熟果の量の減少が、果実食鳥類にどのような影響を与えるのか明らかにしたい。


糞分析から種子散布における鳥の役割を探る

東條一史
森林総合研究所 鳥獣生態研究室

 森林内で種子散布に果たす鳥の役割を明らかにするため、茨城県の林内でカスミ網によって鳥を捕獲して糞サンプルを集めた。ひとつでも種子が含まれていた糞サンプルの割合は鳥の科によって異なり、メジロ科、チメドリ科、ツグミ科、ヒヨドリ科では40%以上だったのに対し、アトリ科、エナガ科、カラス科では0%であった。この種子出現率とバイオマスから、1995年秋から1996年春の小川学術参考林では、ツグミ科、キツツキ科、ヒヨドリ科が大部分の種子散布を行ったと推定され、特に秋期にはツグミ科が重要であったことが示された。


鳥散布種子を集める:森林内での疑似果実の効果(予報)

八木橋 勉・安田雅俊
森林総合研究所 群落動態研究室・森林総合研究所 鳥獣生態研究室

 鳥散布種子の散布距離推定や遺伝解析による親木の推定などを行う際に,鳥類によって散布された種子を回収する必要がある。しかし,通常の種子トラップでは鳥散布種子の回収率は低い。本研究では,林道の法面で効果が報告されている,疑似果実を用いた鳥散布種子の回収率の向上法が,森林内でも有効であるのかを検討した。
 茨城県北部の広葉樹天然林(小川植物群落保護林)の林床において,疑似果実付き止まり木を付けた種子トラップと,種子トラップのみをセットで設置し,内容物を定期的(2-4週毎)に回収した.疑似果実には色付きガラスビーズを用いた.トラップは5月上旬に谷筋に40m間隔で5個1列と尾根に5個1列を設置した,9月に谷を挟んだ反対側の尾根に5個1列を増設した。
 夏期には疑似果実の誘因効果は観察されなかったが,秋期には疑似果実のあるトラップで,疑似果実のないトラップよりも回収種子が多い結果となり,疑似果実の誘因効果が認められた。疑似果実付きトラップで回収された種子の構成は,ミズキ 59種子,アオハダ 4種子,カスミザクラ 2種子,ヨウシュヤマゴボウ 2種子,ウワミズザクラ 1種子であった。これに対し,通常の種子トラップでは,ミズキ 11種子,カスミザクラ 4種子,アオハダ 3種子であった。
 夏期に疑似果実の誘因効果が見られなかった理由としては,昆虫などのえさ資源が豊富で果実の利用が少ないことや,繁殖期の留鳥や夏鳥は,一過性の渡り鳥よりも,テリトリー内の餌の配置をよく把握していること(つまり疑似果実に対する学習効果)などが可能性として考えられた。また,当年度はミズキ以外の果実の結実量があまり多くなかったため,仮に夏期に鳥類を誘因できたとしても,その糞内に種子がほとんど入っていなかった可能性もある。今後,より多くの結実が見られる年,または結実量が多い調査地での検討が必要と考えられる。


半島マレーシアにおけるフタバガキ科の一斉開花

沼田真也
国立環境研究所 生物圏環境研究領域 熱帯生態系保全研究室

 東南アジアの森林において林冠を構成する樹種の多くは2-10年に一度の頻度で、異種間で同調的に開花結実を行う。この現象は“一斉開花(または一斉結実)”とよばれる。一斉開花・結実は、林冠構成種が更新していく上で重要であるため、森林管理を行う上でも注目されてきたが、一斉開花がいつ、どこで起こるのかは、そのメカニズムなどについては不明な点が多い。本研究では、一斉開花の時空間様式を解明し、様々な環境要因の変化(気候変動、森林断片化など)に対する脆弱性を明らかにすることを最終目標として、一斉開花の地理的分布評価や文献記録の検討を行っている。その結果、半島マレーシアのパソ森林保護区における一斉開花には2-4月に始まる春咲き型と7-9月に始まる秋咲き型の二つがあることが明らかになった。これらの一斉開花の花芽誘導が起こるとされる時期は、この地域の乾期および低温が記録される時期と対応していたため、この地域の乾期、雨期を決定するモンスーン(季節風)活動がこの地域の一斉開花の季節性に関わっていると推察された。さらに、この知見を広域的なものへと発展させるため、半島マレーシアにおける月降水量と月最低気温の関係を解析したところ、(1)乾燥、低温が起こる時期は、半島北部で年1回、半島南部で年2回あること、(2)南方振動指数(SOI)がエルニーニョ、ラニーニャでもない通常状態において低温が高頻度でみられることが明らかになった。そのため、半島マレーシアにおいては南方振動指数が通常状態である時期に一斉開花のトリガーがひかれる可能性が高いと予測され、現在のところ、この仮説が支持される結果が得られている。


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種子散布研究会, 2003