フェノロジー研究会 & 第6回 種子散布研究会

第54回日本生態学会(愛媛大学)サテライト集会

終了いたしました.

参加いただいた皆様,ありがとうございました


|開催案内| |プログラム| |概要| |要旨|

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【開催案内】

第6回種子散布研究会はフェノロジー研究会との合同研究会になりました.


■日程
2007/03/22(木) 19:30〜
■場所
生態学会大会(松山) 自由集会
道後温泉 ホテル玉菊荘
■宿泊
道後温泉 ホテル玉菊荘
〒790-0842愛媛県松山市道後湯ノ町4-47 
TEL:089-921-5395 FAX:089-921-4882
http://www11.ocn.ne.jp/~tamagiku/index.html
■ 世話人
大野 啓一(千葉県立中央博物館),上田 恵介(立教大学)
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プログラム】
1 和田 岳(大阪市立自然史博物館)「果実の豊凶と鳥による果実消費の長期定点調査
2 正木 隆(森林総合研究所)「ミズキ果実の豊凶と結実フェノロジーの長期定点調査>要旨3

3 山口 恭弘(中央農業総合研究センター)「秋季におけるヒヨドリの渡り全調査要旨3
4 福井 晶子(日本野鳥の会)「アカメガシワを消費する鳥類に関する全国調査要旨4
5 討論
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概要】 果実フェノロジーと種子散布者の不思議な関係〜液果と冬の渡り鳥をめぐって

堅果の豊凶と比べるとあまり知られていないが,液果の生産量にも長期変動(豊凶)があり,冬期の渡り鳥の餌資源量と果実の消費速度に大きく影響する.一般に,果実食の渡り鳥が増加する時期に実を熟す液果植物が多いと言われてきた.これは既に経験的に確かめられた事実ではあるが,南北に長い日本列島において,両者のタイミングにどのような地理的・時間的変異があるのかは明らかではない.そこで今回は,液果と渡り鳥の関係について以下の4題を予定する.


1.ミズキ果実の豊凶の長期定点調査(正木)>要旨1

2.果実の豊凶と鳥による果実消費の長期定点調査(和田)

3.全国における渡りをするヒヨドリの移動傾向(山口)>要旨3

4.アカメガシワを消費する鳥類に関する全国調査(福井)>要旨4

最後にそれぞれの調査の長所短所から「理想的な調査方法」を議論するとともに,全国規模での「液果と渡り鳥」調査の参加者を募りたい.

要旨】

要旨1 「ミズキ果実の豊凶の長期定点調査

正木 隆(森林総合研究所・群落動態研)

 北茨城の小川群落保護林では、1987年から現在に至るまで、樹木の結実とその散布の空間パターンの調査が続けられている。スペックは、面積1.2ha、トラップ数約150個、期間20年近く、である。私はそのデータを利用して、ミズキの生態についていくつかの論文にまとめ、現在は結実・散布の15年間の変動を解析し、論文としてまとめている最中である。本稿では、このデータで一体何が見えてきたのか、依然として見えないものは何か、という観点からいくつか述べてみたい。
 第一に、ミズキの鳥による散布の年変動は非常に大きかった。ミズキの果実のほとんど鳥に食べられない年もあれば、果実の約80%が食べられた年もあった。ミズキの結実フェノロジーはどの年もほぼ同じであったが、鳥がミズキの果実を食べる時期が年によって大きくことなり、そのためにこの変動が生じていた。すなわち、ミズキの結実のピーク時に鳥が集中的に果実を食べれば、高い率で果実が持ち去られ、それより遅い時期に集中すれば果実の最終的な持ち去り率が低くなっていた。このような変動は、たとえば初期の10年間ではみえなかった。それ以上の期間を続けたことにより見えてきたことであり、長期のモニタリングは森林の生態研究には必須であると考える。
 第二に、それでは、鳥がミズキ果実を食べる時期はなぜ変動したのだろうか?この試験地では鳥獣の研究者によって鳥類のセンサスもおこなわれていたが、それは9月下旬以降におこなわれており、ミズキの結実がピークとなる8月下旬から9月上旬の鳥類組成の年変動は、残念ながらわからない。ただし、ラインセンサスなどの一般的な鳥類センサスを年間を通じておこなったとしても、ミズキの種子散布の変動を説明できたとは限らない。ジェネラルなモニタリングからみえることには限界があり、よりスペシフィックなことを明らかにするには、そのための個別研究をおこなわなければならないだろう。
 第三に、また1.2haという面積も、鳥散布研究には狭い。つまり、散布者をめぐって樹種間の競争があると考えられるが、この面積では他の樹種の結実まで把握するためには足りないのである。とくに小川群落保護林のプロット設定には問題があったのだが、それに気がついたのはようやく最近のことだった。
 第四に、ミズキを散布する動物は鳥類だけではない。ツキノワグマなどの大型獣も重要な種子散布者である。そして最近、小川群落保護林にもクマの痕跡らしきものが見つかるようになってきた。もしもクマまで含めて考えると、堅果類の結実の年変動や空間パターンによってもミズキの散布の成功度が影響されることになる。それを把握するためは、たとえば4〜6haという面積でも不十分である。
 結論として、一箇所におけるジェネラルなモニタリングに加え、より広域かつ簡便な方法での調査、または逆に、よりローカルで集中的な精査をおこなうことで、鳥散布(に限らないが)の研究をより効率的にすすめることができると考える。

要旨3 「秋季におけるヒヨドリの渡り全国調査

山口 恭弘(中央農研・鳥獣害研)

 ヒヨドリは私たちに身近な鳥で、日本中ほとんどの場所で1年中みることができる。その一方、春秋の渡りの時期には数羽からときには数百羽もの群れになって渡っていくヒヨドリをみることができる。留鳥でありながら渡り鳥でもある興味深い生態を持っているといえる。これまで日本各地で個別にヒヨドリの渡りを調査した例はあるものの、全国規模で調査・解析したことはなかった。
 2004年、2005年の秋季、メーリングリストやホームページ、Birder誌やBird Research ニュースレターなど、各種媒体により、ヒヨドリの渡りの観察情報を集め、北海道から九州の各地から、2004年は48名、90箇所の情報が、2005年には33名、68箇所の情報が集まった。総観察羽数は2004年が90,608羽、2005年には174,834羽に及んだ。ヒヨドリが渡る時間帯を調べると朝の7時、8時台が多く、10時までの時間帯で全体の97.2%(2004年)、93.5%(2005)を占めた。一方、午後には0.9%(2004年)、1.4%(2005)と極端に少なくなり、午前を中心に渡っていることが示唆された。飛去方角を調べると南西が最も多く、ついで西、南となり、南から西までの90度の方角で全体の98.8%(2004)、96.9%(2005)になり、秋のヒヨドリがこの方角に渡っていると考えられた。調査地別に方角をみると同じ調査地でもいくつかの方角に分かれるものと、1方角に限定されるものがあり、多数のヒヨドリが渡る渡りの主要ルートと考えられる調査地では方角が限定される傾向があった。ついで群れサイズに着目すると、6時台が最大でその後、減少する傾向がみられた。
 日本全国を10の地域に分けてヒヨドリの渡りを比較すると、2004年では渡り開始時期は北の地域より南の地域で早かったが、2005年では北の地域より南の地域で遅くなる傾向が見られた。これは南の地域で渡りの開始が大幅に遅れていたためであった。しかし、各地域で渡りの期間の中で多くのヒヨドリが渡っている時期を比べると、南の地域で早く、北にいくほど遅くなる傾向は2年とも変わらなかった。北の地域から渡り始めた群れが日本全国を通過しながら南の地域へ行くのではなく、関西や中国などの地域内でまず渡りが開始することはヒヨドリの渡り行動として不変と考えられる。これは地域内で高標高地から低標高地への移動があるためと考えられる。
 一方、南の地域で渡りの開始が大幅に遅れたことに関しては、木の実の豊凶が影響していると考えられる。2004年秋には全国的に木の実が不作であったが、2005年には全国的には豊作であった。木の実の不作の年は食物資源の消失が早く、そのため渡りの開始も早いが、豊作の年には食物資源が遅くまで残っているため、渡りの開始が遅くなるものと考えられる。この関係を明らかにするためにさらに複数年にわたる調査が必要であると考えられた。


要旨4 「アカメガシワを消費する鳥類に関する全国調査

講演:福井晶子 / 調査:27名

 アカメガシワMallotus japonicus朔果は熟すと裂開して数個の黒い種子を露出させ,鳥類に食べられて種子が散布される(上田 1992).アカメガシワが自然分布している全国の 22地点(1都 1府 14県)で合計 27名で,種子を食べに来る鳥類の調査を行った.調査開始は,観察対象木の果序が 80%以上裂開した時期 とした.調査開始は,熊本,高知,愛知の順に早く,京都,群馬,神戸,山形などで遅く,アカメガシワ果実(種子)は北よりも南で早く成熟すると考えられた.総計 227時間 20分の調査の結果,8種の留鳥(メジロ,ヒヨドリ,コゲラ,スズメ,キジバト,ヤマガラ,ムクドリ,エナガ)と4種の渡り鳥(キビタキ,サメビタキ,ジョウビタキ,シロハラ)による採食が観察された.ヒヨドリとスズメは比較的開けた人工環境で,メジロとコゲラは森林内や林縁のアカメガシワ個体で採食する傾向がみられたことから,採食にくる種はアカメガシワの生育環境によって左右されていると考えらえた.秋の時期の渡り鳥には,日本で繁殖した後に,より南へと移動する途中の種(夏鳥)と,日本で越冬するために飛来する種(冬鳥)がある.共に北から南に移動するため,夏鳥は北の地点からは早くいなくなり,南の地点では長くみれらる.一方の冬鳥は,北の地点に早く到着し,南の地点には冬になるまで到着しない.アカメガシワを渡り鳥が採食するかどうかは,北から南への渡り鳥の移動と,南から北へのアカメガシワの成熟地域の時間変化のバランスによって決まっていると考えられた.つまり,アカメガシワが早く成熟する南では(熊本や高知)留鳥と移動中の夏鳥,遅く成熟する北では(山形)留鳥と冬鳥が採食者となっていた.中間の地点では,ほとんど留鳥によって採食された.このような,同じ植物の採食者が地域によって異なっていることを確かめた例はほとんどない.今後,アカメガシワの生息環境および地理的分布に注目し,さらに研究を続けたい.