みのりプロジェクトとは

果実と鳥のフェノロジー調査依頼

渡り鳥をめぐる南北問題の可能性?

福井晶子(京都大学・生態学研究センターCOE)


 渡り鳥の移動時期の調査はまさにフェノロジー研究です.ガンカモ類の渡りについては,詳細かつ大規模な調査がすすめられ,彼等の行動が越冬に適した水辺の分布に左右されることがわかってきました.これに対して,同じ冬の渡り鳥でも,ツグミ類を初めとする中小型の森林の鳥類については,日本国内での移動経路さえわかっていません.レンジャクの個体数が大きな年変動を示すことに気がついている人は多くても,その理由を誰も知りません.
 これらの森林の渡り鳥たちは,繁殖地の寒さを避け,餌資源を求めて移動していると考えられてきました.植物の生産する「果実」は彼らの重要な餌資源であり,一方,彼ら渡り鳥は植物にとって「種子散布者」として重要です.渡り鳥の移動に餌資源が重要な要因であるならば,餌資源である果実の分布や成熟のタイミングによって,彼等の移動は左右されるのでしょうか?また,渡り鳥の到着のタイミングが変化することは,植物にどのような影響を与えるのでしょうか?
 昨年の冬は,各地で(全国的に)果実が豊作だったときいています.そして,南にツグミ類が移動するのが遅かったといわれています.このような「北で果実が豊作だと,果実食の鳥が南に渡るのが遅い(または個体数が少ない)」といった現象は,果実や果実食の鳥を観察している人の間ではよく話題になります.しかし,科学的な検証に耐えるデータはありません.
 そこで,「北の果実量が渡り鳥の南下時期や南下する個体数を左右する」という仮説をたて,これを検証するための共通マニュアルによる調査をみなさんに呼び掛けたいと思います.
 この調査は,「仮説の検証による植物と動物の関係を考察すること」および,「果実と鳥類の関係を群集レベルで明らかにし,その地域変異について考察すること」を目的としています.
 さらに,この調査から次のような保全生態学的な問題を提示できるのではないかと考えています.全国的に鳥類の餌となる果実をつける樹種が公園や並木に頻繁に植栽されています.湿原がなければ越冬できない水辺の鳥と異なり,森林の渡り鳥は越冬に可能な気温と餌資源があれば,さらにコストをかけてまで南下しない可能性があります.植栽木の果実が,種子散布者として重要な役割を担っている渡り鳥を惹き付け,足留めするのかもしれません.例えば,北海道にツグミやヒヨドリの越冬個体が増加していることも,並木による餌資源の提供で説明がつくのではないでしょうか?
 動植物の生活史のタイミングは,フェノロジー研究によって明らかにされてきたとおり,進化の結果であり,時としてほんの少しのタイミングのズレが生物の個体群の存続を阻むものです.渡り鳥が適当な時期にやってこないと森林はどうなってしまうのでしょうか?北の果実が南の植物の種子散布を阻むのでしょうか?さしずめ種子散布者をめぐる植物の間の南北問題がといったことろでしょうか.これらのことを考えるために,まず,「北の果実量および成熟のタイミング」と「渡り鳥の移動時期および南下個体数」についての調査を行わなければなりません.
 調査用のシートに書き込む,福井まで郵送またはファクスでお願いいたします.HPにもデータを書き込めるようにします.みなさんに御協力で集まったデータは,「フェノロジー研究」で発表いたします.また,情報はHP(http://www.fieldnote.com/minori/)に公開する予定です.調査に関する問い合わせや御意見は福井までお願いいたします.

自然林だけでなく,植栽された植生でもよい.
調査期間:9月から1月まで第2週,第4週に行う.果実についてはシーズン中に一度でよい.鳥類調査もできる時にできる調査だけでよい(果実調査だけ,鳥類調査だけでもよい).
果実量の年変動および地域差を明らかにするのが目的である.本年度は果実量にのみ注目するが,将来は果実の成熟や消失のフェノロジーにも注目したい.液果だけでなく乾果含む鳥類の餌となる果実を調査対象とする(植物種の例参照).調査対象の個体は,各植物種について5個体前後(1〜10個体)とする.果実数は,100単位で推定する.みかけだけで推定が難しい場合は,特定の枝を選び,その枝の全果実数をカウントする.全体のうちその枝が占めている割合(樹冠占有率)を推定して,枝の果実数から,個体全体の果実数を算出する.調査を行った個体は,年変動が調べられるように記録する.
ポイントカウント法により種類および個体数を記録する.観察ポイントを決め,その地点で最低5分間に観察される全ての鳥について記録する.ポイントは少なくとも10とする.ポイントは果樹の近くでなくてもよい.果実を食べている行動が観察された場合は,ポイント観察中でなくても記録する.


データの送り先および連絡先

福井晶子

大津市上田上平野町大塚 京都大学生態学研究センター

電話077-549-8200 / FAX 077-549-8201


なお,この調査に興味をお持ちになり,より詳細な調査が可能な方,御自分の研究にこの調査をご利用になりたい方も福井まで是非ご連絡ください.

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